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グリーン・シッピング・プログラムが世界で最も環境に優しい船団を創り出す

11月23日, 2020
By The Explorer
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Egil Ulvan Rederi社が開発した液化天然ガスと電力によるハイブリッド貨物船

ノルウェー政府は、2030年までに温暖化ガスの排出量を50~55%削減することを目標に掲げています。

「この目標を達成するためには、ノルウェー国内の海運業が応分の排出削減を行う必要があります」。こう語るのは、グリーン・シッピング・プログラムのディレクター  ナルヴェ ミョース(Narve Mjøs)氏です。

このプログラムは官民のパートナーシップから生まれました。海運国家としてのノルウェーの地位を強化し、効率的で環境に優しい海運業の実現に向けて拡張性の高いソリューションを見つけることを設立目的としています。

「ノルウェー国内の海運業が温暖化ガスを削減することは、ノルウェーの気候と環境保全効果に大きなインパクトを与えます。とはいえ、これは大変な作業であり、単独でできることではありません」

このプログラムは船級・コンサルタント企業のDNV GL社、ノルウェー気候・環境省およびノルウェー貿易・産業・漁業省が協業しました。現在のところ、公的機関の代表のオブザーバー参加を含め、海運業界から60以上のパートナーがプログラムに参加しており、新たなメンバーも次々と集まっています。

「よく知られているように、すぐれた成果を迅速に得るためには、広範囲にわたる効果的な共同作業が重要です」とミョース氏は話します。さらにミョース氏は「この協業はすでに成果を挙げている」とも言います。

これまでに、20件ほどの大規模なパイロットプロジェクトが立ち上がりました。このうち、環境配慮型の港湾開発プロジェクトが2件あります。別の1件のプロジェクトでは、液化天然ガス(LNG)、揮発性有機化合物(VOC)またはバッテリーで駆動する複数のシャトルタンカー、水素燃料のスピードボート1隻、燃料給油船1隻、そしてゼロエミッションの自動運航船2隻の開発です。

これらすべてのプロジェクトが、ノルウェー国内の船舶産業をより環境配慮型にしていくための重要なステップとなります。このうちの7件は、実行済み、または建設中です。

ノルウェーは既に30~40隻の電動フェリーの開発合意書に署名していますが、これにはバッテリーと充電技術への約2億2800万ドルの追加投資が伴います。こうした活動はさらに続き、2021年までには、合計70隻の完全電動およびハイブリッドのフェリーが誕生します。

連絡先

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Innovation Norway Japan
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グリーン・シッピング・プログラムのプログラムディレクター、ナルヴェ ミョース(Narve Mjøs)氏

マッピングの重要性

グリーン・シッピング・プログラムの最初の課題は、現状を理解することでした。そのために私たちは、包括的なマッピング調査を実施しました。

ミョース氏は次のように説明します。「多くの重要な分野で知識が不足していることが分かりました。たとえば、海洋活動がノルウェーの気候および環境関連の成績に重大な影響を及ぼすことです。私たちは信頼できる数値を持ち合わせていませんでした。今では、ノルウェーの二酸化炭素排出量の9%が国内海上輸送によることが分かっています。それはまた、窒素酸化物の34%および硫黄酸化物の25%の排出源でもあります」

こうした高い数値を具体的に把握して議論することで、共同作業を進めることが容易になりました。

「戦略を実際に動かすには、その目的が何であれ、事実を土台としなければなりません。根拠の薄い意見からは何の結果も生まれないでしょう。こうした数値があれば、環境に配慮した新たなソリューションの開発の重要性について、メンバー間で迅速かつ容易に合意してもらえるようになります」

ミョース氏は、1つのメッセージの下に産業全体がまとまることの重要性を強調します。

「そうすることで政治家が耳を傾けてくれます。そして、グリーン技術の導入に向けた初期マーケットの創出に協力してくれます。新しいソリューションが持つ経済的インパクトの大きさを調査によって明快に示すことができれば、こうした動きはさらに起こりやすくなります」

早い段階でパイロットプロジェクトを実行

とはいえ、環境配慮型のソリューションのどれを優先すべきでしょうか。膨大なアイデアの中で行き詰まることのないように、グリーン・シッピング・プログラムでは、なるべく早い段階で具体的なコンセプトをパイロットプロジェクトとして実行することを重視しています。

ミョース氏は言います。「パイロットプロジェクトは、効果的かつ不可欠な学習手段です。異なる様々なソリューションの調査に際限なく時間を費やすことなく、私たちは比較的早い段階でプロジェクトを開始することができます。そうすることで、迅速に学習してすぐに結果を得ることができるのです」

ミョース氏はシリコンバレーを例にあげて、次のように付け加えます。「現代のIT産業のやり方を見て下さい。新しいソリューションを顧客が素早く実行に移し、そこからさらに発展しています」

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ゼロエミッション型自律航行コンテナ船 Yara Birkeland

モチベーションを与える学習

ミョース氏によれば、環境配慮型のパイロットプロジェクトの実施は、政治家、政府および産業界にモチベーションを与えています。

「さらに、パイロットプロジェクトは国内外で数多く報道されました。そのため私たちは、実行可能かつ大きなインパクトが見込める分野ではパイロットプロジェクトの立ち上げに注力すべきであると、早くから合意できたのです」

私たちのパイロットプロジェクトには実行するだけの価値があることが、すぐに明らかになりました。特に資金調達面ではそうです。

ミョース氏は言います。「多くの海運会社は日々の計算には長けています。しかし彼らが帳簿から顔を上げて、将来、別のやり方で利益をあげられる可能性を検討できるとは限りません。パイロットプロジェクトを通じて調査すれば、コスト削減の機会があるかどうかすぐに分かります。そうすることで新しい活動が始まります。しかも環境に優しい方向に向かってです」

変化が重要

産業全体が協働して環境配慮型のソリューションを開発する大きな理由は、行き着くところ他の選択肢はないという認識の共有です。

ミョース氏は言います。「彼らは、開発の進む方向を見て、今何かやらなければならないと分かっています。そうしないと、数年後には自社の船舶では行き詰まってしまう可能性があるのです。というのも、今の船舶の寿命は、通常20~40年だからです」

一方で、気候と環境に関する意識は高まっています。あらゆる面で船舶の運航に関する規制は厳しさを増し、環境に配慮した方向に向かっています。

「いま具体的な対応策をとらなければ、規制や負担金が課せられることで、海運業界は気候・環境関連の膨大なコストを将来的に背負う可能性があります。将来、自社の船舶で積荷を引き受け十分な運賃を得られる保証はありません。そうなると、船舶の価値は劇的に低下するでしょう。それは、かつてノルウェーでディーゼル車の価値が低下したのと同じことです。この分野で遅れをとるよりは、先頭に立つ方が賢明です」

だからこそノルウェー船主協会は10年間にわたるゼロエミッション戦略を実行しているのだと、ミョース氏は指摘します。

「こうした気候・環境戦略を積極的に実行している船主協会は、世界中でも他に見当たりません。ノルウェーの海洋産業全体が非常に前向きの考え方を持ち、積極的に活動しています。世界を先導する役割を担うことに十分な備えと自信をもっています」

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Teekay社のシャトルタンカー

最先端を行くノルウェーの技術

「液化天然ガス(LNG)、バッテリー、水素をエネルギー源とする船舶の分野で、ノルウェーは世界をリードしています。この分野の開発の多くは公的セクターのサポートを受けているとミョース氏は言い、その一例を紹介します。

「ノルウェー公共道路管理庁が、開発契約を結んで重要な技術開発を支援しました。公共道路管理庁は県と協働して、環境配慮型技術を導入する初期マーケットを創設しました。それが優れた踏み台となって、国内外の活動や輸出につながっていったのです。海運業は最も国際化の進んだ産業です。バイキングの時代からずっとそうでした。ノルウェーが他に秀でた製品とサービスに集中することが大切なのです」

ミョース氏は続けます。「海運セクターにおいて、ノルウェーには強力なブランド力があります。ノルウェーの海運業界において国内開発された技術は非常に大きな可能性を持っており、世界中の船舶で使用されることでしょう。我々には、バリューチェーン全体にわたる広範な専門性があるのです。我々の環境への取組みもよく知られています」

幸先のよいスタート

グリーン・シッピング・プログラムからは貴重な成果が既に生みだされています。しかし、これは長く厳しい旅の始まりに過ぎないとミョース氏は言います。

「このプログラムでは、フェリー部門を環境配慮型へと効果的にシフトさせるにあたって、何が障害となり、どんなソリューションがありうるかを特定するために、早い段階で調査を行いました。だから我々は、ノルウェーの企業が2018年に約30隻のバッテリー駆動船を就航させたことを誇りに思うのです。 しかし、ノルウェーが温暖化ガス排出削減目標を予定通り達成するためには、約120隻のバッテリー駆動船を今年から2050年まで毎年就航させなければなりません」

そしてミョース氏は以下の様に結びます。「この課題の規模と拡がりを政治家に正しく理解させることが大きな問題です。我々として為すべきことは、正しい情報を集め、産業として団結し続けることです。一方で、気候と環境に関する新たな規制は世界で最も有望な事業機会となるということが、あちこちで話題に上っています。優れたソリューションを実現するためのマーケットシェア争いは、今後ますます熾烈になる一方でしょう」