Login

水素への転換を目前にした海運セクター

3月25日, 2022
By The Explorer
shutterstock_1332148916.jpg

Shutterstock

海運セクターのグリーン水素革命の実現化に、ノルウェーの技術が貢献しようとしています。

貨物船やクルーズ船のような大型船舶は、従来は重油などの公害の原因となる燃料で航行していました。誤った方向への発展が続いたことで、海運業からの温室効果ガス排出量は2012年から2018年にかけてほぼ10%の増加となり、世界の総排出量の約3%を占めています。さらに、海運業が北極海の氷を溶かすブラックカーボンの微粒子を大量に放出し、地球温暖化を加速させています。

しかし、海運セクターの排出量を軽減するのは最難題です。陸上輸送はかなりの程度まで電動化できるのに対し、多くの外航船は大きすぎて、現行のバッテリー技術で動かすには航続距離が長すぎます。多くの国々にとって、海運セクターの排出量を実質ゼロに下げるための唯一の方法が、グリーン水素である理由はここにあります

海運燃料としての水素の需要と供給を満たす

相当な規模の商船隊だけでなく、世界でも最大の漁業・水産養殖産業国家の1つであるノルウェーは、現在に至る迄、いつの時代も海洋国家でした。自国の海運セクターの脱炭素化に向けた最初のステップを既に踏み出しており、その始まりは200隻のフェリーで、2025年までにすべてのフェリー交通網のゼロエミッション化を計画しています。

Norwegian HydrogenのビジネスデベロッパーであるIngunn Øvereng Iveland氏は、海上における水素への変換の契機と見ています。

Bilde Ingunn.jpg

Ingunn Øvereng Iveland

ビジネスデベロッパー

Norwegian Hydrogen

「ノルウェーの一部地域では、航行距離が長いことや送電網が比較的乏しいところもあり、バッテリー駆動のフェリーやボートはゼロエミッションの選択肢として現実的ではありません。しかし、この難題に対しては水素燃料の船舶が完璧なソリューションとなります」。

Norwegian HydrogenはHellesylt Hydrogen Hubを展開しており、また、ノルウェー北西沿岸部のグリーン圧縮水素のインフラ全体を実行に移しています。これによって、その地域のゼロエミッションへの移行、すなわち水素を燃料とするフェリー、クルーズ船、スピードボートなどへの移行が可能になります。

しかし、水素プロジェクトは鶏と卵の問題に陥る傾向にあるとIveland氏は言います。海運セクターの場合、船主は造船の前に水素インフラが必要であり、インフラ市場の関係者は投資の前に顧客が必要になります。Iveland氏は、Hellesylt Hydrogen Hubによってこの状況が回避されていると考えています。

「グリーン水素を提供する地域の電解装置技術と合わせ、プロジェクトでは、水素燃料の船舶や車両の運用を計画する関係者と緊密なやりとりを行っています」

「こういった複数のプロジェクトが同時に動いているため、我々は水素利用のインフラと船舶の両方を確保し、鶏と卵の議論を完全に克服しています」。

最初の生産現場は観光地としても人気の高いGeirangerfjord(ユネスコ世界遺産)付近に配置されます。。現在、この地域の大気汚染におけるCO2、NOx、SOx排出量は、ディーゼルフェリーがその約3分の1を占めています。プロジェクトが進む一方、克服すべき課題がさらにいくつかあることをIveland氏は認めています。

「水素燃料船舶の関連法規がまだ完全に発効できる状態にはないという難題が残っています」 「しかし、これも急ピッチで進められているところです」。

geiranger-seen-from-flydalsjuvet-viewpoint_cropped.jpg

Geirangerfjordは季節により交通量が非常に多くなることがあるため、空気が汚れることもあります。

世界をリードする海運安全の専門知識

陸上の車両用水素利用とは異なり、海上における水素の安全利用に関する国際規則はありません。船舶の駆動に必要な容量は大きさによって全く異なり、また、想定される事故から様々な状況に陥るおそれがあります。造船会社は、新しい技術に踏み切る前に、これらの問題を明らかにする必要があるため、規則のない状況が水素の大規模実用を妨げる大きな要因の1つとなっています。

幸いなことに、この分野でもノルウェーの関係者が先頭に立って前進しています。

Asmund_Huser_2-portrait-2.jpg

Asmund Huser

主任専門官

DNV

「水素の特性から、我々は他の化石燃料駆動船用よりも安全な、別の対策を利用しなければなりませんが、準備も整いつつあります」。

オスロを本拠地とし、世界中にオフィスを持つDNVは、海運業のアドバイザーとして世界をリードする船級協会であり、業界の水素の安全利用に向けたリスクマネジメント評価と保証手順を展開する立役者となっています。

Huser氏によれば、安全対策の展開では、手順と技術の試験導入時に利用できた船の数が足りていなかったことが大きな障壁になっていますが、これも変わり始めています。例えば、DNVでは「水素燃料自動車ハンドブック」を作成しており、ここには承認に向けたリスクベースの効率的な経路がまとめられています。

「現在、我々は世界初の水素カーフェリーの承認に取り組んでおり、そこでは安全な手順と技術の働きをモデリングとテストで示しています。また、我々の製図台には船のコンセプトが他にもいくつかあります」とHuser氏は説明します。

「十分な対策を設けることで、水素船は今日の既存船舶と同程度に安全になります」。

vlcsnap-2021-06-02-12h00m20s908.jpg

DNV Spadeadamの研究開発

ノルウェーの専門知識と地質学が水素貯蔵を促進する

環境に悪影響を及ぼすものの、化石燃料には、地表下の大量の備蓄からの抽出を増減させることで、エネルギー需要に即座に対応できるという1つの利点があります。それに対して、水素は生産して貯蔵しなければなりません。生産規模が拡大するにつれて、貯蔵にはますます複雑でコストのかかる安全対策が必要になります。したがって、水素経済がすぐに直面する重要な課題は、今日の化石燃料と同等に安全かつアクセス可能な貯蔵を実現することです。

エネルギー、気候、および技術を専門とする最先端の研究機関であるNorwegian Reserach Centre(ノルウェー研究センター)(NORCE)の専門家たちは、ノルウェー独自の専門知識、そして海洋地質学が、この問題の解決に役立つと考えています。

「パリ協定の目標達成のために、大量の水素が必要になるという事実は避けられません。しかし、数百立方メートル規模の水素貯蔵についての議論を始めると、従来の貯蔵ソリューションに付きまとう深刻な技術的および安全上の問題に直面します」と、NORCEの主任研究員であるNicole Dopffel氏は説明します。

「しかし、直ちに利用できる安全な貯蔵場所として、我々にはノルウェーの大陸棚があります」。

Dopffel氏は、NORCEで実施されている、近未来のエネルギーシステムの創造に関する研究の概略を述べており、それは洋上風力エネルギーと現場の電解槽を利用してグリーン水素を継続的に生産してから、それを海面下の累層に貯蔵するというものです。

この貯蔵累層には水素需要に応じて後に穴を開けることができます。これは、ノルウェーで既に備えられている多くのインフラを利用するもので、今日の化石燃料とほぼ同程度に安全かつ便利な貯蔵が可能になります。

nicole_photo.jpg

Nicole Dopffel

主任研究員

NORCE

「ノルウェーの大陸棚で見つかっている岩塩空洞と多孔質累層において実績のある技術の利用から、我々は数百万立方メートルに及ぶ水素貯蔵を見据えています」。

「これは、パリ協定の達成に必要となる大量の水素を貯蔵するための、実質的に唯一の安全かつアクセス可能な方法です」。

グローバル水素経済がノルウェーの海運専門知識を必要とする

グリーン水素革命は間近に迫っており、ノルウェーの海運ノウハウがますます必要とされています。

「海上交通や旅行、または水産養殖を問わず、さらなるビジネスへのインフラ促進において競争力があると我々は考えています」と、Norwegian HydrogenのIngunn Øvereng Iveland氏は言います。

「我々には、自分たちのビジネスを拡大し、それによって他の国々の別の市場に我々のソリューションとグリーン圧縮水素を輸出するという目標があります」。

DNVのAsmund Huser氏は、水素の安全性に関する自社の取り組みが包括的な一連の規則の下地になり、それが最終的に国際海事機関(IMO)に採用されると予想しています。同氏は、DNVの取り組みがそれで終わりにならないことを確信しています。

「ノルウェーにおいて、我々はガス技術の安全性と、石油・ガス産業における爆発リスクへの対処に関する多くの経験を積んできました。これを水素に適用することは大きな飛躍ではなく、我々の専門知識は、特に洋上のグリーン水素が現実化されるときには、強く求められ続けていくでしょう」。

NORCEのNicole Dopffel氏は、海運用水素におけるノルウェーの将来に期待を寄せています。

「ノルウェーがこれまでに培ったエネルギーやガス、そして海運の専門知識とインフラを元に、海運用水素の技術が培われて行きます」と彼女は言います。

「ノルウェーの強みは洋上にあります」