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水素とアンモニア:新たな船舶用グリーン燃料の市場創設に向けて

Jeremy Bishop/Unsplash

海運業界が国際海事機関(IMO)の排出削減目標を達成するためには、水素やアンモニアを燃料とする船舶を増やしていく必要があります。そのためノルウェーでは複数のビジネス・クラスター(企業集団)が、こうした新たな船舶用のグリーン燃料に必要とされるインフラや、バリューチェーンの創設に乗り出しています。

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燃料水素―陸上輸送 5月19日(水)15:30-17:30(日本時間)

燃料水素―海上輸送 5月20日(木)15:30-17:30(日本時間)

「グリーンな海上輸送については、主にグリーンな水素やアンモニアの生産に議論が集中しがちですが、こうした議論は、水素やアンモニア燃料の市場が存在しなければ無意味です。なぜなら存在しない顧客のために製品を作ることは出来ないからです。だからこそ私たちは、ゼロ排出燃料のバリューチェーン全体の開発に取り組んでいるのです」とStein Kvalsund氏は話しています。

海運の水素利用を進めるノルウェーのビジネス・クラスター、Ocean Hyway ClusterのCEOを務めるKvalsund氏によると、海運業界は次のような難題に直面しています。まずグリーン燃料への移行を迫られているものの、グリーン燃料が市販され、大半の港にバンカリングや供給用設備が設けられるという段階にはまだ至っていないのが現状です。 そのため水素やアンモニアを燃料とする船舶に投資することは困難です。

一方で、水素やアンモニアのバリューチェーンやインフラは、需要が十分になければ構築されません。

「技術はまだ確立されていませんが、実はそのことが最大の問題なのではありません」

NCE Maritime CleanTechのCEOを務めるHege Økland氏

「グリーン燃料で航行する船舶自体は、製造出来るでしょう。問題は商業的な性質のものであり、構造やシステムの変革と関わっています」とグリーン海運に取り組むノルウェーのビジネス・クラスターNCE Maritime CleanTechのCEO、Hege Økland氏は指摘しています。

Ocean Hyway Clusterのプロジェクトマネージャー、Kristin Svardal氏も、Økland氏と同じ見解です。

「必要とされる船を作るための知識は既に十分にあります。例えば造船会社Brødrene AAが、水素燃料で動く船の製造を受注した場合、36か月後には完成して海に浮かんでいることでしょう。ですが、この技術力を十分に活用するための条件がまだ整っていないのです」

上述の2つのビジネス・クラスターは、こうした条件を整えるために、海運業へのグリーン燃料船舶導入を加速するためのプロジェクトを実施しているのです。

水素とアンモニア -船舶用グリーン燃料の基礎知識

水素とアンモニアは、どちらもゼロエミッション燃料になりますが、こうした燃料自体の二酸化炭素の総排出量は生産方法次第です。またこの2つの燃料には関連があります。というのも、アンモニアは水素化合物なのです。とはいえ、水素とアンモニアには異なる特徴や用途があります。

「どの燃料が、個々の運航状況や運航計画にとって最適なのかについては、きちんと計算してみなければわかりません。例えばアンモニアはエネルギー密度が高いので、長距離を航海する大型船舶の場合、水素よりエネルギー効率が優れています。ですが、高速船のように重量が鍵を握る場合には、水素が最適の燃料なのかもしれません」とØkland氏は説明し「ただしこうしたことは、燃料選択の際に考えるべき数多くの要素の一部に過ぎない」と話しています。

アンモニアは肥料生産の最重要原料の1つなので、生産や輸送のバリューチェーンが既に幅広く構築されている点も重要な要素です。

一方で、海運業の電化も本格的に進んでいます。とはいえ、すぐに大型船舶を電池だけで長距離を航行するというわけにはいきません。そのためStein Kvalsund氏は、未来は補完的なグリーン技術が併用されることになると考えています。

「海運業のゼロ排出シナリオでは、電池、水素、アンモニアを燃料とすることを考えています」

Ocean Hyway ClusterのCEO、Stein Kvalsund氏

Brødrene AAが設計したAero40 H2高速フェリー

世界初のアンモニア燃料電池の搭載船

海運業の脱炭素化を加速させるために、NCE Maritime CleanTechはShipFC プロジェクトに参加し、その調整役を務めています。このプロジェクトはEUのFuel Cells and Hydrogen Joint Undertaking (FCH JU)(燃料電池‐水素 共同実施機構)の資金提供によるもので、大型船をアンモニアの燃料電池(FC)で動かすという世界初の試みです。

「アンモニア燃料電池が、洋上補給船Viking Energyに後付けで搭載され、改造された船はEquinor社が運用します。エネルギー集約型の大型船舶でも排出ゼロにできることを実証できればと考えています。こうした方法で、長距離を航海する大型船でのアンモニア燃料の使用を推進していきたいと思います」とHege Økland氏は話しています。

洋上補給船Viking Energyに搭載予定のアンモニア燃料電池システムの発電容量は2メガワット、これにより二酸化炭素を一切排出せずに、年間3000時間を超えてこの船を運用できるようになります。このプロジェクトのコンソーシアムには、ノルウェーの企業であるEquinor、Eidesvik Offshore、Prototech及びWärtsilä、並びに欧州の10の海運会社、研究機関、その他の企業などが参加しています。

上記のプロジェクトと並行して、NCE Maritime CleanTech はValue Chain for Green Liquid Hydrogen プロジェクトにも参加しています。このプロジェクトはノルウェーの PILOT-E schemeが資金を提供し、ノルウェーの海運業向けに液体水素の完全なサプライチェーンを構築することを目指します。ノルウェーの電力会社でエネルギーソリューション提供業者でもあるBKKが先導し、Equinorやフランス企業のAir Liquideが主なパートナーとして参加します。

「液体水素は、取り扱いが難しいエネルギー源です。摂氏零下266度で保管しなければならないので、燃料として輸送、貯蔵、供給するうえで課題があります。ですがLNGで積み上げてきた多くの専門知識や経験を活かして、解決策を工夫することは可能です」ともØkland氏は話しています。

グリーン燃料の使用で、ノルウェー沿岸域での二酸化炭素排出量を120万メートルトン削減

Ocean Hyway Clusterは、Hydrogen Infrastructure in the Maritime Industry (HyInfra)と称する海運業の水素インフラ構築プロジェクトを、圧縮水素、液体水素、アンモニアに焦点を絞り行っています。

「ノルウェーで必要とされる水素はどれくらいの量なのかについてデータを入手しました。電動フェリーで航行可能な航路は数えずに、どこで水素燃料船舶を使用できるのか、タイムテーブルのレベルまで掘り下げて調べました。そして、これまでの分析の結果として、2035年までに3万9000メートルトンの水素が必要なことがわかりました」とKvalsund氏は説明しています。

Ocean Hywayとそのプロジェクトパートナーは、フェリーや高速艇の航路、海運航路、ノルウェー沿岸域の海上交通について、電動フェリーは航行できなくても、水素船ならば航行できる航路を特定しました。そして海運当局や業界関係者に対して、水素とアンモニアのインフラをどこでどのように構築すべきかの詳細なロードマップを提示しました。

Deep Purpleプロジェクトでは、水素を海底に保管することで洋上風力発電を安定化させるというソリューションを開発中

水素とアンモニアを使用することで、二酸化炭素の排出を大幅に削減できます。

「私たちの計算では、ノルウェー沿岸域において、燃料油や天然ガスで航行する船舶を、水素やアンモニアを燃料とする船舶に置き代えることによって、二酸化炭素排出量を117万メートルトン削減できることが示されています」とHyInfraのプロジェクトマネージャー、Kristin Svardal氏は話しています。

Kvalsund 氏と Svardal氏はともに、ノルウェーは、水素とアンモニアを中心として持続可能かつ収益性の高い産業を構築するための、独自の機会に恵まれていると考えています。

「ノルウェーは主要な海運国家でもあり、石油やガス産業における多くの知識と経験もあります。また、私たちはクリーンなエネルギーを使って水素とアンモニアを生産できますから、船舶用グリーン燃料分野のリーダーになる可能性が大いにあります。」

Ocean Hyway Clusterのプロジェクトマネージャー、Kristin Svardal氏

「ですが、グリーン燃料の使用を拡大するには、まだ大きな課題がいくつも残されています。グリーン燃料が標準的な燃料となるには、船舶部品や燃料自体の開発に関して、まだ遠い道のりを歩まねばなりません」とSvardal氏は指摘し、次のように結びました。

「ゼロ排出社会を目指していると言いましたが、そのための技術開発には費用がかかります。財政的支援や公共機関によるグリーン調達の推進などの積極的な戦略を伴う、前向きな政策が求められています。水素やアンモニアの市場を海運業界の利益となるように創設、拡大していくには、より強力な手段が必要なのです」

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